“文学少女”と恋する挿話集1
さて、野村美月さんの“文学少女”シリーズの短編集、その1。
本編を読み終えて後、実に3日間もの間、拒食症ならぬ拒読症になりまして、日曜にようやく読書を再開いたしました。
なんとなく、まだ吹っ切れていないこともあり、おかゆ代わりに児童書からとも思いましたが、さすがに児童書のストックはなかったので素直にこちらのシリーズで。
こちらの短編集、時系列はけっこうバラバラです。
‘おやつ’は割とあっさりとした印象、どれも心葉と遠子先輩のお話で、特に最後の特別編なんかは本編を心葉と遠子先輩の物語として読んでから読むべきかな、と感じました。私のようにもやもやしたものを抱えたまま読むと素直に味わえない可能性があります。
*以下、未読の方はぜひ本作品を一度読んでから本記事の方もお読みいただけたらと思います。
さて、おやつ以外のお話を中心にちょっとした感想を。
『~牛魔王』『労働者』は割とコメディ色の濃いお話ですね。本編の外側のお話と割り切っているのか、結構ぶっとんだ個性の方々が登場したように思います。
『~乙女』は、こちらは見事に甘酸っぱく仕上げてあります。ハッピーエンドを予感させつつも、描ききらずに読者に委ねてしまうようなラストが非常に私好みで、本書から一話だけオススメを紹介しろと言われたらこちらになるかもしれません。まぁ、大本命は次なのですが。
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そんなわけで私の本作一番の‘お気に入り’『無口な王子と歩き下手の人魚』。本編を読んであればなんとなく察せられるでしょう、一詩と美羽のお話。本編のラスト、それぞれのその後において、美羽はあまりに脈絡のないことになっていて驚いたのですが、そのあたりの経緯が想起されるお話でもあります。そんなわけで、モノローグは美羽です。
“コノハのことを想うだけで、毎日、毎日、全身の皮膚が火に焼かれているようだった”
“今は、蝋燭の明かりのように、細く、かすかに揺らめいている”
という未羽の心情についての描写。この描き方が非常にうまかったですね、ぜひ自分で読んで感じていただきたいのでこれ以上は引用しませんが、未羽の心の火はきっと澄んだ、美しいものになっていくことでしょう。読み終えた後は、そう願わずにはいられません。
忘れられないのは、
“そうよ、この話には続きがあるの”
と美羽が言った瞬間。美羽の話を読むにあたって感じていた苦味を見事に抜ききった一言でした。私はこの一言の入るシーンの前後で2つの別々のお話かな、と思っています。
そして、
“ずっと、誰かを幸せにできる人になりたかった”
なんとなく、この物語の登場人物はみんなそれぞれ、どこかでほんの少しずつボタンをかけ違えたのではないかと、そんなことをぼんやりとではあるけれど、あらためて考えなおしたのもこのお話。
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『~姫』と『~預言者』はそれぞれ、麻貴と流人のお話。前者は正確には麻貴から見た遠子のお話ですかね。
メインの登場人物のなかで、おそらく、唯一ボタンをかけ違えなかったのが麻貴。入学の時点で彼女は同年代では一歩大人びていた。言い換えれば、荒んでいた。そんな彼女のモノローグ、明らかに似合わない一文からがクライマックス。そこからは彼女本来の強さが出てきます。そして、最後のシーンの静けさ。短編ながら彼女の魅力を存分に味わえました。私は何度もこのラストを読み返してしまいました。
流人のお話は再びコメディ色を濃くしながら、多少、彼の内面を掘り下げた感じ。あとは『~姫』で麻貴が少し触れた遠子の恋愛観に関しての補足がされたのかな。そして、こっそり千愛ちゃん。
‘おやつ’については特別編だけ触れておきます。遠子の引越し先でのお話。題材はPaul Gallicoの『スノーグース』。彼女がその味を表現した瞬間、ようやく本編一作目のことを思い出す私。麻貴の言う遠子の恋愛観をこの瞬間まできちんと理解していないという失態(苦笑)。
“本当に大切な気持ちは、口にしちゃいけない……墓場まで抱いていかなきゃ……”
やはり、私は一度、心葉と遠子先輩の物語をきちんと読まないといけないですね。